雨の日の連絡帳

幸太郎と僕は幼稚園も小学校も一緒だった。
家が近かったので親同士は小さい頃からやたらと仲がよかった。
だけど僕たちはというと、それほどいい訳でも悪いわけでもない。

幼稚園のころはバスのお迎えのとき、いっしょだったけどあまり話さなかった。
幸太郎はおとなしくて、怖がりで、いつも一人で遊んでいるタイプだった。
その頃の僕は今とは別人のような活発な元気な子供で
いつも走り回って母親を困らせていた。
そんな僕は幼稚園で一番強かった、健志に気に入られていたので、
よく健志と、あとその友達と、かけっことかかんけりをしたりして遊んでいた。
幸太郎とは組も違ったし、卒園するまで、特に仲がいいとかそういうわけじゃ、なかったんだ。

それから僕は小学校に入学した。
小学校は僕のうちから遠くて、同じ地区から通っているのは
幸太郎だけになった。
すると、僕の母親は
「幸太郎君と一緒に行きなさい。」
と言い、僕は、その日から幸太郎と一緒に登校するようになった。

後から知ったのだがこれは、幸太郎の母親が
臆病な幸太郎のために僕の母親に頼んだらしい。

それから少しずつ幸太郎と話すようになった。
幸太郎は体がよわいらしく、たまに苦しそうなせきをしたりしたけど、
めったなことがない限り学校を休んだりしなかった。
幸太郎は小学校に入学してもあいかわらずおとなしかった。
休み時間はみんな外に出てドッジボールとかサッカーとかしているのに
幸太郎は教室にのこって本を読んでいた。
五分休みだって、一人で自分の机に座っていたし、
みんなで話したりもしなかった。
僕はそんな幸太郎を横目で見ながら、だんだんと新しい友達を作っていった。

最初は幸太郎と一緒だった下校も、そのうち僕は家が同じ方向の他の友達に
誘われるようになって、とうとう登校の時間にしか会わなくなった。
それでも一緒に学校に行っていたのは、毎日幸太郎が僕のうちに
来るからで、僕はなんとなく断れずにいた。
いや、断る理由も特になかった。

ある時、こんなことを聞いたことがあった。
「幸太郎、学校行って面白いか?」
僕は学校に行っても読書しかしない幸太郎が不思議だった。
「うん。僕は学校、好きだよ。」
それは心から言っている言葉だった。変なやつと思いながら
何故か心のどこかで尊敬に似た気持ちを持った。

そんなわけで、小学校一年生から、ほぼ毎日僕たちは
朝のわずかな時間を共有していた。